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最高裁判所第一小法廷 昭和31年(あ)2114号 決定

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人松岡友一の負担とする。

理由

被告人松岡友一の弁護人宍戸雄蔵の上告趣意は事実誤認、単なる法令違反の主張であり、被告人谷田寿夫の弁護人中山福蔵の上告趣意は違憲をいうが、その実質は単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であり、被告人朴重煥の弁護人山根弘毅の上告趣意は量刑不当の主張であって、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(なお、弁護人宍戸雄蔵の論旨中、有価証券偽造、同行使に関する法条を適用すべしとの主張は、被告人に不利益な主張であって、上告理由として不適法であるのみならず、本件無記名定期預金証書は、定期預金証書の用紙を用い、所要事項の内宛名の部分(預金者名)を空欄としてあり、その裏面には約定文言として「この預金は当銀行の承諾なくしては、他に譲渡し又は質入せられることを御断りします」、「此の預金の取引については、予て御届出の印章を御用意願います」、「この証書を喪失せられましたときは、直ちに御届け願います。当銀行は……適当と認める保証人二名と共に連署した保証書を徴し代り証書を御渡しし又は元利金を御支払致します」等が印刷されているのであって、かかる証券は、財産権が証券に化体せられ、その行使、譲渡に右証券の占有を必要とする有価証券とは認めることができず、従って、事実審がこれに有価証券偽造同行使に関する法条を適用せずして、私文書偽造、同行使罪に問擬したのは正当である。)

よって同四一四条、三八六条一項三号、一八一条(被告人松岡友一につき)により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 真野 毅 裁判官 斎藤悠輔)

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